不動産取引は、人生における大きな決断の一つです。
通常、買主、売主、そして仲介業者が連携し、物件の調査から契約、決済へと段階的に進みます。
しかし、この複雑な取引の流れを悪用し、巧妙な手口で第三者を欺く地面師詐欺という犯罪が存在します。
近年、大手企業をも巻き込む地面師詐欺事件が後を絶たず、深刻な社会問題となっています。
巧妙な手口で不動産取引を装い、巨額の資金を騙し取る地面師とは一体何者なのでしょうか?
本記事では、過去に実際に起きた驚くべき事件やその手口を深掘り解説。
なぜ彼らはそのような不動産を狙うのか、その背景を徹底的に解き明かします。
近年では、地面師を題材としたNetflixドラマも注目を集めていますが、現実の事件とは異なる点も多く存在します。
ドラマの内容にも触れつつ、地面師の実態に迫ります。
地面師詐欺とはどのような事件か?
不動産取引は高額な資産が動くため、契約や登記などの法的手続きを通じて安全性が保たれています。
しかし、その制度を逆手に取って詐欺を行うのが「地面師」と呼ばれる者たちです。
彼らは、他人の土地をあたかも自分のもののように装い、大手企業などを相手に巨額の不正利益を得る詐欺集団です。
地面師詐欺が起きる理由
地面師詐欺が発生する背景には、不動産取引における「登記情報と本人確認のギャップ」があります。
登記簿の内容が正しいとは限らず、売主が実在するかどうかの確認が難しい場面があるのです。
とくに、長期間使われていない土地や所有者が高齢・海外在住などで連絡が取りづらい場合、地面師にとって絶好のターゲットになります。
また、不動産取引はスピード勝負の面もあるため、買主側が十分な調査を行わないまま契約するケースも詐欺発生の要因となっています。
地面師とはどのような人たち?
地面師とは、他人の土地を勝手に売却しようとする不動産詐欺の加害者集団です。
単独で行動することは稀で、複数の人物が役割を分担して犯行に及びます。
たとえば、「偽の所有者」「情報収集する図面師」「偽造書類の作成者」「買主との交渉役」「人材斡旋する手配師」などが存在し、あたかも本物の取引のように見せかけるのです。
その手口は年々巧妙化しており、見破るのが困難になっています。
ドラマ『地面師たち』の登場人物に例えると、
役名 | ドラマ「地面師たち」登場人物 |
---|---|
地面師集団のリーダー | ハリソン山中(豊川悦司) |
買主との交渉役・法律屋 | 後藤 義雄(ピエール瀧) |
偽造書類の作成 | 長井(染谷将太) |
手配師 | 稲葉 麗子(小池栄子) |
情報収集する図面師 | 竹下(北村一輝) |
偽の所有者 | 谷口 俶恵(小林麻子) |
引用:Netflix
ちなみに、地面師詐欺の現場では、同席する弁護士や司法書士が“本物”であるケースも多く、彼らは依頼人が地面師であることを知らずに手続きを進めてしまうことがあります。
特に巧妙な詐欺グループは、書類や人物の整合性を徹底的に整えているため、外部からは見抜けないことが多く、結果的に弁護士も騙されてしまう構図です。
そのため、法曹関係者であっても騙されるリスクが存在するのが、地面師詐欺の厄介な点とされています。
実際に起きた地面師詐欺事件一覧
不動産業界を震撼させる“地面師詐欺”は、実際に複数の大規模事件として報道されてきました。
特に、狙われたのは大手企業や空き地、高額物件などで、巧妙に練られた手口により多額の被害が発生しています。
積水ハウス 地面師事件(2017年)
Netflixドラマのモデルとされる日本中を驚かせた最大級の地面師事件。
東京都品川区の高級住宅地にある土地(約2000㎡:山手線五反田駅から徒歩3分の立地にある旅館「海喜館)を、地面師グループが偽の所有者を用意し、積水ハウスに55億円で売却。
所有権移転が完了する前に資金をだまし取るという大胆な手口で、10人以上が逮捕された。
土地の所有者は海外に住んでおり、その“空白”を突いた詐欺だった。
中野区地面師事件(2017年)
2017年、東京都中野区沼袋2丁目にある約360㎡の土地を舞台に、地面師グループとされる男4人が不動産詐欺を行い、警視庁に逮捕されました。
彼らは土地の所有者になりすまし、偽造された運転免許証などの身分証明書を用いて売買契約を締結。
不動産会社を騙して7,000万円を詐取したとされています。
参考ページ:地面師グループか、4人を再逮捕 都内の地主になりすまし土地売却
アパホテル地面師事件(2017年)
2013年、東京都赤坂の約120坪の駐車場用地を舞台に、地面師グループがアパホテルを相手に不動産詐欺を働き、12億円超を詐取した事件が発生しました。
対象地は無借金・空き地という“地面師にとって好条件”の土地で、所有者が既に死亡していたことから、地面師らは相続人になりすまし、売買契約を成立させました。
住民基本台帳カードなどの偽造書類を使って本人確認をすり抜け、アパホテル側と契約を締結。
しかし、法務局が登記書類の偽造を見抜いて申請を却下。
その時点で“なりすまし役”は行方不明となっており、詐欺が発覚しました。
参考ページ:アパホテルから12億円を騙し取った「地面師」驚きの手口
表面化・報道されない事件も多数
地面師による不動産詐欺は、報道されるのは氷山の一角にすぎません。
表に出ないまま示談や泣き寝入りで処理されるケースも多く、被害の実態は把握しきれていないのが現状です。
特に中小の不動産会社や個人が被害に遭った場合、社会的信用や取引先への影響を恐れて公表を控えることがあり、事件として立件されないまま終わるケースも存在します。
地面師の手口とその方法:どのようにして他人の土地を狙うのか?
地面師は、高額な不動産取引の構造と手続きの複雑さを巧みに悪用する詐欺集団です。
特に、空き地や所有者不明の土地など“管理の目が届きにくい”物件をターゲットに、偽造書類と巧妙な演技で合法的に見える売買契約を成立させ、巨額の金銭を詐取します。
偽造書類を使った手口の実態
地面師は、まず本物の所有者や相続人になりすますことから始めます。
そのために、住民基本台帳カードや運転免許証、印鑑証明書、登記識別情報通知などを精巧に偽造。
本人確認を突破した上で、買主との契約交渉を行います。
必要に応じて、偽の代理人として振る舞い、弁護士や司法書士と同席することで“取引の信頼性”を演出します。
見た目上は問題のない正規の売買契約が成立してしまうのです。
地面師グループの活動と手法
地面師詐欺は、単独犯ではなくチームで行われる組織的犯行です。
主犯格が全体を統括し、偽の所有者役、書類偽造役、交渉役、司法書士役、情報収集役などがそれぞれの役割を担います。
綿密な計画のもと、事前にターゲットの土地を調査し、所有者の居住状況や相続関係を把握した上で、攻撃的に詐欺計画を進めます。
周囲に疑念を持たれないよう、時には実在する仲介業者や専門家を巻き込みながら計画を遂行するのが特徴です。
売買締結前の手付金狙いも
地面師詐欺の手口は、最終的な売買代金(売買締結)の騙取だけにとどまりません。
より早い段階で利益を確定させるため、売買契約締結前に支払われる手付金を主なターゲットとするケースも見受けられます。
地面師グループは巧妙な偽造書類やなりすましによって、あたかも正当な不動産取引であるかのように装い、買主から高額な手付金を騙し取ります。
その後、様々な理由をつけて契約を履行せず、手付金を没収するというのが典型的な流れです。
例えば、地面師グループが、評価額数億円の土地の売買を持ちかけ、買主に対して「早期契約であれば相場より大幅に安い価格で提供できる」などと魅力的な条件を提示します。
その上で、「他からも買い付け希望者がいるため、早めに意思表示として手付金を支払ってほしい」と促します。
この際、提示される手付金額は、売買代金の1割~2割程度であることが多く、数千万円から数億円に及びます。
買主は、有利な条件での購入機会を逃したくない一心で、地面師グループの言葉を信用し、高額な手付金を支払ってしまいます。
しかし、手付金が支払われた後、
「所有者の都合が悪くなった」「書類に不備が見つかった」「急な資金が必要になった」など、もっともらしい理由を並べ立て、最終的には連絡が途絶えてしまいます。
契約が進行するにつれて買主は「ここまで来たからには進めるしかない」という心理に陥りやすく、取引が破綻しても買主側が表沙汰にせずに処理してしまい、事件として表面化しないまま終わる事例も多く見られるようです。
地面師詐欺に引っかからない土地所有者が知っておくべきこと
「地面師詐欺?自分には関係ない」そう思っていませんか?
かつてのバブル期には、地上げ屋が強引な手法で土地を取得する事例が横行しました。
現代においても、ターミナル駅周辺などの再開発が進むエリアを中心に、土地取得が積極的に行われています。
「私は大丈夫」という油断こそが、詐欺とは言わずとも、狙われる隙となる可能性があります。
大切な資産を守るためには、地面師の手口を知り、適切な対策を講じることが不可欠です。
こんな方は狙われやすいかも:不動産を所有している立場で注意すること
不動産取引における注意点
大切な不動産を守り、地面師詐欺の被害に遭わないためには、以下の点をしっかりと確認し、慎重に取引を進めることが重要です。
地面師とは?記事まとめ
地面師とは、他人の土地を不正に売却しようとする詐欺グループであり、偽造書類やなりすましによって不動産取引を装い、多額の金銭を詐取する犯罪者です。
都心の空き地や相続放置地などを狙い、司法書士や弁護士を巻き込むなど手口は年々巧妙化しています。
実際の事件から学ぶとともに、所有者としての意識を高め、本人確認の徹底や登記情報の確認など基本的な対策を怠らないことが、被害を防ぐために重要です。
終わりに:話題のNetflixドラマの感想
世界的に注目を集めたNetflixドラマ『地面師たち』は、リアリティある詐欺の手口と、登場人物たちの個性豊かな演技が光る秀逸な作品でした。
緊迫感のある交渉シーンや、心理戦の駆け引きは非常に見応えがあり、現実の事件を知る上でも興味深い内容となっていました。
ただし、ストーリー展開の中で仲間が次々と命を落とす描写はやや過激で、フィクションとはいえ少し行き過ぎた感も・・・。
とはいえ、エンターテインメントとしての完成度は高く、地面師という存在を知るきっかけとしても優れた作品だと感じました。
項目 | 内容 |
---|---|
タイトル | Netflixシリーズ「地面師たち」 |
監督・脚本 | 大根仁 |
出演 | 綾野剛、豊川悦司、北村一輝、小池栄子、ピエール瀧、染谷将太、松岡依都美、吉村界人、アントニー、松尾諭、駿河太郎、マキタスポーツ、池田エライザ、リリー・フランキー、山本耕史 |
原作 | 新庄耕『地面師たち』(集英社文庫) |
エグゼクティブ・プロデューサー | 高橋信一 |
プロデューサー | 吉田憲一、三宅はるえ |
製作 | Netflix |
制作プロダクション | 日活/ブースタープロジェクト |
話数 | 全7話(一挙配信) |
Netflix作品ページ | 地面師たち |
著作権表記 | ©新庄耕/集英社 |
不動産取引においては、相手の身元確認が非常に重要です。
運転免許証や住民票といった一つの書類だけでなく、パスポートや健康保険証など複数の公的な証明書を提示してもらい、記載されている情報や顔写真などを照らし合わせて、本人であることをしっかりと確認しましょう。