相続土地国庫帰属制度
大切な家族を亡くした悲しみの中、突然訪れる相続。
残された財産をどのように整理していくべきか、途方に暮れている方も多いのではないでしょうか。
特に、田舎にある土地は、管理や売却が難しく、大きな負担となってしまうケースが少なくありません。
固定資産税や相続税などの支払い義務が発生するだけでなく、遠隔地にある場合は定期的な管理も必要となり、思わぬ出費がかさむことも。
「このまま放置しておくしかないのかな…」
そんな不安を抱えている方へ、朗報(?)です。
2023年4月より施行された「相続土地国庫帰属制度」は、まさにあなたのような状況に悩む方のための救世主となる可能性を秘めています。
この制度では、相続した土地を国に譲渡することが可能となります。
つまり、所有権を放棄することで、一切の負担から解放されるのです。
しかし、「国に譲渡するなんて、なんだか損な気が…」と二の足を踏んでいる方もいるかもしれません。
そこで今回は、相続土地国庫帰属制度について、メリットとデメリットを踏まえながら詳しく解説していきます。
- 「相続した土地、どうしよう」
- 「相続した家が空き家になっている」
- 「空き家を売却してるけど売れない」
と悩んでいるあなたにとって、最適な選択の指針となる情報をお届けします。
次の章では、相続の際に発生する問題と、相続土地国庫帰属制度がどのように役立つかについて詳しく掘り下げていきます。
空き家を持ち続けるデメリット
空き家を放置することは、想像以上に多くのデメリットがあります。
以下、主なデメリットを3つご紹介します。
- 固定資産税・都市計画税
空き家も居住用地と同様に固定資産税・都市計画税が課税されます。
家屋が建っていない土地であっても、土地の広さに応じて課税されるため、意外と高額な税金がかかります。 - 修繕費
空き家を放置していると、雨漏りやシロアリ被害などの劣化が進み、将来的に修繕が必要になります。
修繕費は数十万円から数百万円と高額になる場合もあり、大きな経済的な負担となります。
☆雨漏り:雨漏りは、建物の構造を損傷させるだけでなく、カビやダニなどの発生原因にもなります。
放置すると、健康被害にもつながる可能性があります。
シロアリ被害:シロアリは、建物の木材を食害し、倒壊などの危険を引き起こす可能性があります。
被害が拡大すると、多額の駆除費用が必要となります。 - 解体費用
空き家を解体する場合、更地にするための費用がかかります。
解体費用は、建物の大きさや構造、業者のによって異なりますが、一般的には数百万円単位です。
- 特定空き家等に指定されるリスク
一定の条件を満たす空き家は、特定空き家等に指定される可能性があります。
特定空き家等に指定されると、行政代執行による強制撤去や、罰則の対象となる場合があります。特定空き家等に指定される条件
以下のいずれかに該当する空き家が特定空き家等に指定されます。
・著しく荒廃している、又は倒壊の危険がある空き家
・人の居住に供されていない空き家であって、その用に供することができない状態にあるもの
・その他、地域における美観を著しく損ねている、又は悪臭を発生させているなど、周辺の生活環境に悪影響を与える恐れがある空き家 - 近隣トラブル
空き家が放置されると、害虫の発生や悪臭、雑草の繁茂など、様々な問題が発生し、近隣住民とのトラブルに発展する可能性があります。
☆害虫: 空き家は、蚊やハチ、ネズミなどの害虫の住処になりやすいです。
害虫の被害は、健康被害だけでなく、精神的なストレスにもつながります。
☆悪臭: 空き家から悪臭が発生すると、周囲に不快な思いをさせてしまいます。
悪臭の原因としては、動物の死骸やゴミの放置などが考えられます。
☆雑草の繁茂: 空き地の雑草は、視界を遮ったり、害虫の発生原因となったりするだけでなく、火災の原因にもなり得ます。
空き家が放置されると、地域の景観を悪化させ、治安の悪化にもつながる可能性があります。
また、空き家が増えると、地域全体の活力が低下してしまうという問題もあります。
☆治安の悪化:空き家は、犯罪者の狙い目になりやすいです。特に、窓やドアが壊れた状態の空き家は、侵入されやすい状態と言えます。
☆地域全体の活力の低下:空き家が増えると、地域のイメージが悪くなり、移住者が減ったり、企業進出が控えられたりする可能性があります。
相続土地国庫帰属制度:空き家問題の救世主となるか?
少子高齢化や人口減少の影響で、日本全国で空き家が増加し続けています。
放置された空き家は、倒壊の危険性や害虫の発生、景観悪化など、地域社会にさまざまな問題を引き起こしています。
相続土地国庫帰属制度は、この空き家問題にも大きく関連しています。
この制度により、所有者不明の空き家や放棄された土地が国に帰属されることによって、これらの土地や建物の有効活用が図られます。
相続土地国庫帰属制度により、これらの土地が国の管理下に入ることで、公共の利益に資するような活用が期待されています。
例えば、公園や地域コミュニティ施設の建設など、地域社会の活性化に寄与する用途での利用が考えられます
相続土地国庫帰属制度とは?
相続土地国庫帰属制度とは、2023年4月(令和5年4月27日)に施行された相続人がいない、もしくは相続放棄が行われた土地を国が管理する制度です。
この制度により、放置される可能性のある土地を国が責任を持って管理し、公共の利益に活用することが可能になります。
主に、相続が発生した後に相続人がいないか、あるいは相続人が相続を放棄した場合に適用されます。
相続土地国庫帰属制度の申請条件・申請方法
相続土地国庫帰属制度を申請できる人は、以下の条件にマッチしている人です
- 申請者は、相続や遺贈により土地を取得した個人であること。
- 希望する土地は申請者の単独所有であること。
これらの条件を満たす場合、申請者は相続土地の一部または全部を国に帰属させることができます。
土地が共有地である場合には、相続や遺贈によって持分を取得した相続人を含む共有者全員で申請する必要があります
土地の管理コストの国への不当な転嫁やモラルハザードの発生を防止するため、国庫帰属の要件が法令で具体的に定められています。
申請ができない土地は以下になります。
参考ページ:空き家解体に補助金の活用は可能?
これらの条件を考慮して、国庫帰属を希望する土地を選定する際に注意してください。
また、審査の段階で該当すると判断された場合に不承認となる土地は以下になります。
崖がある土地
勾配が30度以上であり、高さが5メートル以上の崖がある土地は、通常の管理に過分な費用や労力を要するため、国庫帰属の対象外です。
土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
地上に工作物、車両、樹木などの有体物が存在し、通常の管理や処分を妨げる土地も、国庫帰属の対象外です。
除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
地下に有体物が存在し、その除去が必要な土地も、国庫帰属の申請はできません。
隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地
以下の条件を含む土地は、国庫帰属の申請ができません。
(a) 他の土地に囲まれて公道に通じない土地(民法第210条第1項に規定する事情のある土地)
(b) 池沼・河川・水路・海を通らなければ公道に出ることができない土地、または崖があって土地と公道とに著しい高低差がある土地(民法第210条第2項に規定する事情のある土地)
所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(軽微なものを除く)
その他の土地
以下の土地も、通常の管理又は処分に過分な費用や労力を要するため、国庫帰属の対象外です。
★災害の危険により、土地や周辺の人、財産に被害を生じさせるおそれを防止するため、措置が必要な土地
★土地に生息する動物により、土地や周辺の人、農産物、樹木に被害を生じさせる土地
★適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備が必要な森林
★国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地
★国庫に帰属したことに伴い、法令の規定に基づき承認申請者の金銭債務を国が承継する土地
これらの条件を考慮して、国庫帰属を希望する土地を選定する際に注意してください。
申請方法・申請にかかる費用
相続土地国庫帰属制度の利用には審査手数料・負担金の2つがあります。
《1⃣審査手数料》
法務局が申請を審査する際に必要となる費用です。
審査手数料は、土地一筆当たり14000円かかります。
*審査手数料の納付後は、申請を取り下げた場合や、審査の結果、却下・不承認となった場合でも、審査手数料を返還できませんので注意が必要です。
専門家に依頼が安全です
《1⃣負担金》
負担金は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した、10年分の土地管理費相当額です。
要件審査を経て承認を受けた方は、負担金通知を受け、政令によって定められた金額を支払う必要があります。
宅地、農用地、雑種地、原野は、面積にかかわらず20万円となります。
森林の場合は、面積区分に応じた算定となります。
例外(都市計画法の市街化区域又は用途地域等)もあるため、詳しくは、専門家・法務省で確認ください。
申請方法
相続土地国庫帰属制度を利用するには、法務局へ承認申請を行う必要があります。
申請方法は、大きく分けて2種類あります。
申請者: 承認申請者本人または法定代理人(未成年後見人・成年後見人等)
提出方法: 来庁(使者による提出可)または郵送
郵送申請の場合
・必要書類: 国庫帰属の申請書が入っていることを記した書留郵便(封筒と切手は自分で用意)またはレターパックプラスに申請書と添付書類等を入れて、土地の所在する法務局の本局まで送付
・事前確認: 郵送前に、可能な限り法務局での事前確認を推奨
申請場所: 一部の法務局の出張窓口
申請者: 承認申請者本人または法定代理人(未成年後見人・成年後見人等)
提出方法: 来庁のみ
相続土地国庫帰属制度の申請は、複雑な手続きであり、必要書類も多く、専門的な知識も求められます。
ご自身で手続きを進めるのは大変な場合があり、代理人に依頼することを前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
相続土地国庫帰属制度を活用するメリット・デメリット
相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈によって取得した不要な土地を国に無償で譲渡できる制度ですが、様々なメリットとデメリットが考えられます。
引き取り手を自分で探す必要がない
不要な土地を手放す際、引き取り手を探すのは難しいことがあります。
相続土地国庫帰属制度では、国が引き取りを拒否できないため、自分で引き取り手を探す手間が省けます。
引き取り手が国であるため安心できる
国が引き取り手であるため、管理や後々のトラブルを心配する必要がありません。
農地や山林も引取の対象になる
通常、農地や山林は手放すのが難しいですが、相続土地国庫帰属制度では公平に審査され、引き取りが可能です。
不要な土地の維持管理費用の負担を軽減できる
相続したものの、活用方法がなく、固定資産税や管理費などの負担が重荷になっている土地を手放せます。
特に、山林や農地などの管理が難しい土地の維持にかかる費用を軽減できます。
相続人間での争いを回避できる
相続した土地について、相続人間で意見が対立している場合、国に譲渡することで円満に解決できる可能性があります。
特に、共有名義の土地や、遠隔地の土地など、管理や処分が難しい土地について有効な手段です。
災害リスクの高い土地を手放せる
崖地や河川沿いなどの災害リスクの高い土地を国に譲渡することで、被災リスクを回避できます。
今後起こり得る地震や豪雨などの災害による被害を防ぐことができます。
すべての土地が対象ではない
一定の要件を満たした土地のみが対象となります。
土地の価額相当の金銭は得られない
国に譲渡する土地の価額相当の金銭は得られません。
土地を売却した場合と比べて、経済的な利益は小さくなる可能性があります。
関連ページ:空き家を売るなら
申請手続きに時間がかかる
申請には、法務局等への提出書類の作成や、土地の測量などが必要となります。
手続きには数ヶ月~1年程度かかる場合がある。
土地の所有権が移転する
国に譲渡した土地の所有権は国に移転します。
将来的に、その土地を再び取得することはできません。
相続時に土地を手放す方法の比較
手続方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
相続土地国庫帰属制度 | ・1筆の土地単位で申請可能 ・国が明確な基準で引き取る ・相続人1人で手続可能 |
・相当額の負担金を支払う必要がある ・共有者がいる場合は全員が共同して申請する必要がある |
相続放棄 | ・手続費用が安い ・負担金なし |
・全ての相続財産を放棄することになる ・申述期間に制限あり |
国や地方公共団体への寄附 | ・身近な自治体に土地を任せられる | ・寄附相手を探すのが困難 ・寄附基準が異なる |
民間売買 | ・売買代金を得ることができる ・共有者がいても自分の持分のみ売却可能 |
・購入相手を探すのが困難 ・売買条件を交渉する必要がある |
よくある質問
相続土地国庫帰属制度に関連するよくある質問の紹介します。
制度開始前に相続された土地であっても、申請が可能です。
遺贈により土地を取得した場合でも、法定相続人でない場合は申請できません。
相続登記が未了であっても、相続又は遺贈によって取得した土地であれば申請可能です。
ただし、所有者であることを証する書面が必要です。
申請は、土地が所在する法務局の本局でのみ可能です。
支局や出張所では申請できません。
法定代理人以外の第三者を代理人として全ての手続きを委任することは認められていません。
ただし、申請書類の作成は弁護士、司法書士、行政書士に限り依頼が可能です。
土地の筆界に関する専門的な知識を持つ土地家屋調査士に相談することが推奨されます。
事前の測量は不要ですが、土地の所在や所有権の範囲を示した図面の作成が必要です。
境界点を示す仮杭を設置し、ポールやプレート、テープ類で視認できるようにする必要があります。
土地の範囲と隣接する土地との境界点を明確にする写真の添付が必要です。写真がない場合は現地で撮影が必要です。
袋地の申請は特定の条件下では不承認となる可能性があります。
詳細は現地調査後に確認されます。
農地や森林も申請可能です。
農地法に基づく農業委員会の許可は本申請前には不要ですが、権利調整については農業委員会に相談できます。
審査中に不明点があれば職員が問い合わせを行い、場合によっては現地調査に同行してもらうことがあります。
また、現地調査のために草刈りや投棄物の撤去を事前に行うよう要求されることがあります。
審査完了後に書類の返却が可能ですが、印鑑証明書等は返却できません。
標準処理期間は約8か月ですが、事案によってはそれ以上の時間がかかることがあります。
国庫への帰属が承認されるまでは、承認申請者が土地を管理します。
所有権が移転された後、次の1月1日までに登記が完了すれば、その年からは国が固定資産税を負担します。しかし、登記が遅れると翌年の税金も申請者が負担することになります。
却下や不承認となった事由が解消されれば、再申請が可能です。
虚偽の供述等で承認を受けた場合は、承認が取消される可能性があります。また、損害が生じた場合は損害賠償責任を負うことがあります。
相続土地国庫帰属制度と相続の放棄との違いは何ですか。
相続土地国庫帰属制度と相続の放棄の主な違いは、承継する財産の範囲と経済的負担にあります。
相続の放棄を選択した場合、被相続人の財産に属したすべての権利義務を承継しないことになり、経済的な負担は発生しません。
これは、相続が発生した際にすべての財産を放棄することを意味します。
一方、相続土地国庫帰属制度は、特定の土地だけを対象としており、この制度を利用するためにはその土地が法定の要件を満たしている必要があります。
また、申請時に負担金の支払いなどの金銭的負担が伴うこともあります。
放棄できる財産の範囲
相続放棄は。被相続人の財産全てを放棄します。
相続土地国庫帰属制度は、特定の土地のみを国庫に帰属させることができます。
要件
相続放棄は、特に要件はなく、誰でもすることができます。
相続土地国庫帰属制度は、土地について法定の要件を満たす必要があります。
手続き
相続放棄は、家庭裁判所へ申述する必要があります。
相続土地国庫帰属制度は、法務局へ申請する必要があります。
費用
相続放棄は、費用はほとんどかかりません。(5000円程度)
相続土地国庫帰属制度は、土地の価額等に応じて負担金を納付する必要があります。
相続土地国庫帰属制度:記事まとめ
令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。
相続が発生した場合、3年以内に登記の申請を行うことが法律で義務付けられるようになります。
義務化に伴い、違反した場合の罰則(10万円以下の過料)も設けられており、相続人(法定単純承認も)はこの新しい制度の下で適切な手続きを迅速に行う必要があります。
そのため、場合によっては、実家や空き家の処分で困惑している人も少なくないかもしれません。
その意味で、相続土地国庫帰属制度は、相続によって得た不要な土地を国に帰属させることで、管理困難な土地問題の解決となるでしょう。
個人の負担軽減と社会貢献の両立
この制度は、相続した土地の維持管理や処分に悩む個人にとって、大きな負担を軽減する手段となります。
同時に、放置された土地を有効活用することで、地域社会の活性化や環境保全など、公共の利益にも貢献することが期待されています。
申請には要件と審査が必要
申請できる土地は、相続開始後1年以内に取得した土地に限られ、土地の種類や状況、法令上の要件を満たす必要があります。
さらに、法務局において厳格な審査を経て、承認されると、土地は国の管理下に入り、所有者は一定の負担金を支払うことになります。
制度の活用と今後の課題
相続土地国庫帰属制度は、まだ新しい制度であり、運用状況や今後の改正等に注意が必要です。
制度の利点を最大限に活かし、社会貢献につなげるためには、制度の理解と適切な活用が不可欠です。
最新の情報については、法務局等のホームページ等でご確認ください。
また、弁護士、司法書士、税理士等の専門家に相談することで、個々の状況に合った最適なアドバイスを得ることができます。
相続土地国庫帰属制度は、個人の負担軽減と社会貢献の両立を目指す、重要な制度です。
制度を正しく理解し、積極的に活用することで、より良い社会の実現に貢献していきましょう。
参考情報:法務省 相続土地国庫帰属制度