管理不全空き家と特定空き家の違い
近年、全国的に空き家問題が深刻化しています。
人口減少や高齢化、住宅の老朽化など様々な要因が複合的に絡み合い、空き家は年々増加傾向にあります。
空き家を放置しておくと、建物の劣化が進み、倒壊の危険性や衛生環境の悪化、景観を損ねるなど、様々な問題を引き起こす可能性があります。
特に、管理不全空き家や特定空き家と呼ばれる状態の空き家は、地域住民の安全・安心な生活を脅かすだけでなく、固定資産税にも大きな影響を与える可能性があります。
そこで今回は、空き家問題の中でも特に重要な「管理不全空き家」と「特定空き家」について、その違いや固定資産税への影響について詳しく解説していきます。
空き家を所有されている方はもちろん、将来的に空き家を所有する可能性がある方も、ぜひこの記事を参考にしてください。
空き家の現状
みなさん全国的に空き家がどのくらい増えていることを知っていますか?
総務省の「令和5年 住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家総件数は、
1978年:268万戸
1988年:394万戸
2008年:756万戸
2018年:849万戸
2023年時点で900万戸と過去最多という結果が示されました。
そして空き家はまだまだ増えていくといわれております・・・・
またそんな中で国ではこんな動きが!?
「空き家対策特別措置法」が制定され、国としても空き家をどうにかしようと対策に動いております。
空き家対策特別措置法とは?
「空き家対策特別措置法」は、2015年に施行された日本の法律で、全国的に問題となっている空き家の増加に対処するために制定されました。
適切な管理が行われていない空き家等が、
- 防災
- 衛生
- 景観
等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、地域住民の生命、身体又は財産を保護するとともに、その生活環境の保全を図り、あわせて空き家等の活用を促進することを目的としています。
人々は
「この建物は誰も管理していない」
「この地域では誰も注意を払っていない」
と感じ、モラルが低下します。
その結果、他の窓ガラスも割られたり、落書きが増えたり、ゴミが不法投棄されたりするようになります。
さらに、そのような状況が続くと、地域全体の秩序が乱れ、凶悪犯罪も発生しやすくなると考えられています。
特定空き家とは?管理不全空き家とは?
空き家が増え続ける中、それらが地域社会に及ぼす影響は無視できません。
日本政府もこの問題に対処するため、「空き家対策特別措置法」を制定し、問題のある空き家を「特定空き家」として指定し、適切な対応を促しています。
放置された空き家が周囲の安全、衛生、そして景観に悪影響を及ぼすことを防ぎます。しかし、
特定空き家とは具体的にどのような基準で指定されるのでしょうか?
また、管理不全空き家とは何が違い、どのような問題があるのでしょうか?
これらの空き家がどのように地域社会に影響を与え、何が求められているのかを詳しく解説します。
特定空き家とは?
「特定空き家」とは、「空き家対策特別措置法」に基づき、地方自治体が社会的な問題を引き起こす可能性があると判断した空き家のことを指します。
- 建築物の老朽化が著しく、崩壊の危険がある場合
- 不衛生であり、害虫や害獣の発生源となっている場合
- 防火上の問題がある、または公衆の安全に危険を及ぼす場合
- 犯罪の温床となっている、またはその恐れがある場合
- 景観を著しく損なうなど、他の住民の居住環境に悪影響を及ぼしている場合
これらの基準により、自治体は該当する空き家を特定空き家として指定し、その後の対策を講じることが可能です。
特定空き家に指定されるとどうなる?
空き家が特定空き家に指定されると、市町村長は所有者等に対して、以下の措置を命ずることができます。
- 助言・指導:空き家の適切な管理に関する助言や指導
- 勧告:空き家の状態改善を勧告
- 命令:空き家の除却、修繕、その他必要な措置を命令
これらの措置に従わない場合、過料(50万円以下)、また行政代執行により、空き家を強制的に除却したり、必要な措置を講じることができます。
また、現状、200㎡以下の住宅用地は固定資産税が6分の1軽減を受けられなくなり、固定資産税の負担が大幅(6倍)に増えることとなります。
管理不全空き家とは?
2023年12月の空家等対策特別措置法の改正によって、新たに設置された区分です。
管理不全空き家とは、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空き家対策特別措置法)第13条に定義されている、以下のいずれかに該当する空き家等のことです。
- 建物の老朽化が進み、屋根や外壁の一部が破損している
- 庭木や雑草が繁茂し、害虫や害獣が発生している
- ゴミが不法投棄され、悪臭が発生している
- その他、周辺の生活環境に悪影響を及ぼす可能性がある状態
適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空き家等に該当することとなるおそれのある状態
- 1年以上住んでいない
- 管理が不十分
の空き家になります。
管理不全空き家に指定されるとどうなる?
空き家が管理不全空き家に指定されると、市町村長は所有者等に対して、以下の措置を講ずることができます。
- 指導:空き家の適切な管理に関する指導
- 勧告:空き家の状態改善に必要な措置を命令
指導・勧告までで、行政の直接介入することはありませんが、
これらの措置に従わない場合、特定空家と同様に、固定資産税などの軽減措置の適用を受けることができなくなります。
なぜ、特定空き家・管理不全空き家が増加するのか?
日本国内で空き家の数が増え続ける現象は、多くの地域で深刻な社会問題となっています。
特に「特定空き家」と「管理不全空き家」に指定されていない物件も含め、増加傾向です。
なぜこれらの空き家が増加するのか、その背景にはどのような社会経済的要因が存在するのでしょうか?
空き家が増加する原因:1.高齢化と人口減少
日本の人口は高齢化とともに減少しており、特に地方ではこの傾向が顕著です。
若者が大都市へと流出する一方で、高齢者が亡くなることで家が空き家となり、それが管理されなくなるケースが増えています。
高齢者の持ち家が次の世代に引き継がれず、放置されることで、これらの家は徐々に劣化し、管理不全空き家へと変わっていくのです。
空き家が増加する原因:2.経済的負担
空き家の維持管理には、税金、保険、修繕費用など、多くの経済的負担が伴います。
特に経済的に余裕のない家庭では、これらの費用を捻出することが困難であり、結果として家が適切に管理されなくなります。
長期間にわたる管理の欠如は、建物の老朽化を招き、特定空き家としての指定につながることが多いです。
空き家が増加する原因:3.地価の低迷
地方における地価の低迷も空き家問題を悪化させる一因です。
土地や家屋の価値が下がると、それらを売却して現金化するインセンティブが減少し、所有者は放置する選択をすることが増えます。
これが長期にわたり続くと、建物はさらに劣化し、地域全体の景観や安全性に悪影響を及ぼすようになります。
空き家が増加する原因:4.法的・制度的問題
空き家の所有権の問題や相続問題も、空き家が増える原因の一つです。
所有者が明確でない場合や、相続が複雑に絡むことで、誰が管理責任を負うのかが不透明になることがあります。
適切な管理が行われず、最終的には特定空き家や管理不全空き家となることがあります。
空き家問題の解決策:特定空き家・管理不全空き家に指定される前に
日本の空き家問題は深刻化の一途を辿り、社会全体で取り組むべき課題となっています。
空き家を放置しておくと、建物の劣化が進み、倒壊の危険性や衛生環境の悪化、景観を損ねるなど、様々な問題を引き起こす可能性があります。
特に、特定空き家や管理不全空き家に指定されると、固定資産税の軽減措置が解除されたり、行政からの指導や命令に従わなければならないなど、所有者にとって大きな負担となります。
そのため、特定空き家・管理不全空き家に指定される前に、空き家問題を解決するための様々な方法を検討する必要があります。
参考ページ:空き家の土地活用方法:11の選択肢と成功のポイント
空き家売却
空き家を売却することは、その所有者にとって直接的な解決策です。
売却により、維持管理の責任と費用から解放され、同時に資産を現金化することが可能となります。
市場における空き家の価値を高めるためには、適切な修繕やリノベーションが効果的です。
また、不動産会社と協力して適切なマーケティング戦略を展開することで、売却成功の可能性を高めることができます。
売却プロセスをスムーズに進めるためには、適切な価格設定とターゲット市場の明確化が重要です。
参考ページ:空き家の売却:デメリット・注意点・失敗しない方法
更地化
更地化は、空き家を解体して土地のみの状態に戻すことです。
特に建物が老朽化している場合や、建築基準法などの規制により建物が建て替え困難な場合に有効です。
更地にすることで、土地の利用価値を高め、新たな建築プロジェクトや土地売買の機会を生み出すことができます。
更地化することで、土地の潜在的な価値を最大限に引き出し、新しい投資者や開発者を惹きつけることが可能となります。
参考ページ:空き家を更地にするには?自治体からの補助金・助成金は活用できる?
土地活用
土地活用は、空き家の土地を再開発することにより、新たな価値を生み出す方法です。
例えば、住宅やアパート、オフィスビルなどを新たに建設することで、地域の活性化に寄与します。
また、駐車場や倉庫などの低コストの事業を展開することも可能です。
土地活用を進める際には、地域の市場ニーズを理解し、適切な開発計画を立てることが重要です。
相続土地国庫帰属制度の活用
相続土地国庫帰属制度とは、2023年4月(令和5年4月27日)に施行された相続人がいない、もしくは相続放棄が行われた土地を国が管理する制度です。
この制度により、放置される可能性のある土地を国が責任を持って管理し、公共の利益に活用することが可能になります。
主に、相続が発生した後に相続人がいないか、あるいは相続人が相続を放棄した場合に適用されます。
参考ページ:相続土地国庫帰属制度とは?
空き家バンクの活用
空き家バンク制度は、空き家や空き地の情報を一元的に管理し、購入希望者や利用希望者に情報を提供するものです。
この制度を活用することで、空き家や土地が見過ごされることなく、効率的に再利用される道が開かれます。
自治体や地方政府がこの制度を推進することで、空き家の問題に積極的に対応することが可能です。
参考ページ:空き家バンクとは?
管理不全空き家と特定空き家:記事まとめ
空き家問題は、管理不全空き家や特定空き家といった形で深刻化しており、地域社会に様々な悪影響を及ぼしています。
管理不全空き家は、適切な管理が行われていないために、将来的に特定空き家になる可能性がある空き家を指します。
一方、特定空き家は、管理不全空き家よりもさらに状態が悪化し、保安上危険な状態にある空き家を指します。
これらの空き家を放置しておくと、建物の倒壊や衛生環境の悪化、景観を損ねるだけでなく、固定資産税の軽減措置が解除されたり、行政からの指導や命令に従わなければならなくなるなど、所有者にとっても大きな負担となります。
空き家問題を解決するためには、所有者だけでなく、地域住民、行政、専門家など、様々な関係者が協力し、早めに対策を講じることが重要です。
これまで、
- 家屋の倒壊の恐れ 保安上の危険
- 景観を損なっている
- 衛生上有害・周辺環境への悪影
等の空き家を特定空き家と認定し、自治体は勧告、場合によっては過料も課せられていました。
2023年12月の空家等対策特別措置法の改正によって、
- 1年以上住んでいない
- 管理が不十分
等、特定空家になる可能性のある空き家を管理不全空き家とという区分が新たに設置されました。
この管理不全空き家への指導に対して従わず勧告を受けると、現状、200㎡以下の住宅用地は固定資産税が6分の1軽減を受けられなくなり、固定資産税の負担が大幅(6倍)に増す可能性がでてきました。
元メガバンク融資課出身、バブル時代に不動産コンサルティングに従事し、2000年、会社設立後、底地ビジネス・事務所の立ち退き裁判等も経験した宅建士と共に立ち上げ、現在、不動産にまつわるサービスの紹介、口コミ・筆者の感想を加え紹介しています。